企業経営の組織/人事マネジメントを考える
 
 
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 No38.労災精神障害の予防/抑制対応

 
       
   レジュメ

  労災精神障害の予防/抑制対応について解説いたします
 
    
Ⅰ.心理的負荷の発生に関する対応ポイント
    Ⅱ.固体側の脆弱性に関する対応ポイント
 
    
   視 点
 
    精神障害は本人やその家族にとって多大な負担となるだけでなく企業側においても生産性を低下
    させ労災ともなれば訴訟や賠償、社会的信用の低下等さまざまなダメージを受けます。

    中には「精神障害なんてのは気合や胆力が足りないからだ …」とそれこそ精神論で片付けようと
    する向きもありますが、近年の労災補償状況から見て最早そうした次元ではなく企業防衛視点か
    らのマネジメント対応が必要とされる状況になっていることは間違いありません。

    労災対象となる精神障害の発生原因は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と固体側の反応性、
    脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、心理的負荷が非常に強ければ固体側
    の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こり逆に脆弱性が大きければ心理的負担が小さくても破綻
    が生じるとする 「ストレス-脆弱性理論」に依拠しています。

    このことから労災対象となる精神障害の発生を予防/抑制するにはその原因となる心理的負荷の  
    発生を予防/抑制するとともに固体側の脆弱性を小さくする対応が求められます

 
 
 
    
  Ⅰ.心理的負荷の発生に関する対応ポイント

    心理的負荷は業務によるものと業務以外のものに区分されます

    
   1.業務による心理的負荷発生の予防/抑制ポイント
 
    業務による心理的負荷はその程度が「強」と評価される出来事のある場合に労災認定要件
    を満たしますので発生の予防/抑制対応もこの出来事に沿って検討すると遺漏なく体系的
    に整理できます。

    以下、負荷程度の評価指標となる「業務による心理的負荷評価表」において心理的負荷の
    程度が「強」と評価される事例と これに対応する予防/抑制ポイントを解説いたします。     

    【出来事の事例詳細は「No37.労災精神障害の認定基準」に記載しています。】
 
   
   1)特別な出来事の事例と発生の予防/抑制対応

    
   (1) 心理的負荷の程度が「強」と評価される事例

     ① 心理的負荷が極度のもの

       ・ 重度の労災療養中の症状急変や極度の苦痛
       ・ 強姦や強制わいせつ行為などのセクシャルハラスメントを受けた等

     ② 極度の長時間労働

       ・ 1か月ないし1か月未満の期間における長時間の時間外労働
 
   (2) 心理的負荷発生の予防/抑制ポイント

     ① 心理的負荷が極度のものに関して

        ● 労災の発生自体を予防する法的な労働安全衛生管理体制の確立と稼動
        及び療養被災者とその家族へのケア対応(経済的・心理的負担の軽減等)

        ●
セクハラ・パワハラ防止教育の実施、懲戒基準の整備・開示、被害の相談
        /救済機関の設置、被害者とその家族へのケア対応(経済的・心理的負
        担の軽減等)

     ② 極度の長時間労働に関して

        ● 1か月に160時間を越える又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例
        えば3週間に120時間以上の)時間外労働の防止

        ●
サービス残業の点検と管理責任体制の確立
 
 
 
   2)特別な出来事以外の出来事の事例と発生の予防/抑制対応
 
    
   (1) 心理的負荷の程度が「強」と評価される事例

     ① 事故や災害の体験

       ・ 業務上の重度の病気やケガ
       ・ 業務に関連する悲惨な事故や災害の体験、目撃

     ② 仕事上の失敗、過重な責任の発生等

       ・ 業務に関連して重大な人身事故、重大事故を起こした
       ・ 会社経営に影響する重大な仕事上のミスをし事後対応にもあたった
       ・ 会社で起きた重大な事故、事件について責任を問われた
       ・ 自分の関係する仕事で会社の経営に影響する多額の損失等が生じた
       ・ 業務に関連して違法行為を強要された
       ・ 相当な努力をしても達成困難なノルマが課された
       ・ 会社経営に影響するノルマが達成できず事後対応に多大の労力を費した  
       ・ 会社経営に影響する新規事業の担当や会社の建て直しの担当になった
       ・ 顧客や取引先から無理な注文を受け困難な調整にあたった
       ・ 顧客や取引先から重大なクレームを受け困難な調整にあたった

     ③ 仕事の質・量

       ・ 仕事の内容・仕事量の変化による時間外労働の大幅増や常時緊張状態
       ・ 長時間の時間外労働
       ・ 長期にわたる連続勤務

     ④ 役割・地位の変化等

       ・ 退職を強要された
       ・ 配置転換による業務環境の悪化
       ・ 外国転勤による業務遂行の困難
       ・ 複数名で担当していた業務を一人で担当するようになった
       ・ 非正規社員であるとの理由等により仕事上の差別、不利益取扱を受けた

     ⑤ 対人関係

       ・ 上司や同僚からひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた
       ・ 業務をめぐる方針等において上司と大きなトラブルがあった
       ・ 業務をめぐる方針等において同僚と大きなトラブルがあった
       ・ 業務をめぐる方針等において部下と大きなトラブルがあった
       ・ セクシャルハラスメントを受けた
 
   (2) 心理的負荷発生の予防/抑制ポイント

     ① 事故や災害の体験に関して

        ● 業種・規模に応じた法定労働安全衛生体制がとられているか。
        ●
労働安全衛生に関するパトロールが定期的に行われているか。
        ●
労働安全衛生教育が定期的に行われているか。
        ●
労災事故の発生時/事後処理に関する対応マニュアルが整備されて
         いるか。
        ●
労災事故関係者へのメンタルケア体制が整備されているか。
        ●
etc.

     ② 仕事上の失敗、過重な責任の発生等に関して

        ●
会社経営や人身に関る重大事故へのリスク対策がとられているか。
        ●
会社経営や人身に関る重大事故への組織的責任体制ができているか。
        ●
業務責任権限分掌が開示されているか。
        ●
業務責任権限分掌の遂行に必要な教育等サポートが行われているか。
        ●
ペナルティの程度は責任権限分掌の範囲を超えていないか。
         ●
etc.

     ③ 仕事の質・量に関して

        ●
部署別時間外労働時間を把握できているか。
        ●
時間外労働時間数は全部署とも法定基準内に収まっているか。
        ●
部署別サービス残業・休日出勤の点検が行われているか。
        ●
時間外労働や休日出勤が常態化している部署はないか。
        ●
休憩・休日は法定基準以上の条件で実施されているか。
        ●
etc.

     ④ 役割・地位の変化等に関して

        ●
人事異動に際しては本人の能力・経験・適性等が配慮されているか。
        ●
配置異動・転勤に際して教育・庶務支援等必要なサポートが行われて
         いるか。
        ●
昇格・昇進に際しては責任権限の変更説明と対応教育が行われているか。
        ●
非正規社員であることを理由とする差別・不利益取扱はないか。
        ●
退職手続きは法定基準、就業規則に従って行われている。
        ●
etc.

     ⑤ 対人関係に関して

        ●
セクシャルハラスメントの防止教育が行われているか。
        ●
セクシャルハラスメントの相談/救済機関が設けられているか。
        ●
パワーハラスメントの防止教育が行われているか。
        ●
パワーハラスメントの相談/救済機関が設けられているか。
        ●
その他職場の人間関係トラブルの相談/救済機関が設けられているか。
        ●
etc.
 
 
 
 
   2.業務以外の心理的負荷発生の予防/抑制ポイント
 
    業務以外の心理的負荷による発病は労災認定の対象とはなりませんがその発病や精神的
    ダメージが労働生産性に影響を与えることは間違いありません。

    このため業務以外の心理的負荷についても労災認定の免責事項ということで一概に片付け
    てしまわず、その発生を予防/抑制していく必要があります。

    業務以外の心理的負荷の内容と強度は【「No37.労災精神障害の認定基準」】に記載すると
    おりですがいずれも私生活上のことで出来事の発生自体を防止することはできないため、
    出来事発生後の心理的負荷の軽減がマネジメント対象となり、その対応ポイントは以下の
    とおりです
。      
 
   
   1)出来事の有無/内容の把握

     慶弔見舞の申請、休暇・欠勤・遅刻早退事由、定期的自己申告等を通じて少なくとも
     負荷程度が「強」に該当する出来事の有無/内容を把握できる体制を整備します。

     一般的に私生活上の出来事を仕事に持込むことを忌避する傾向がありますがこうした
     情報収集をブラインドにしておくと出来事の認知や対応に遺漏が生じるだけでなく会社
     へのロイヤリティやモチベーションを低下させる原因ともなります。
 
 
   2)負荷軽減対応

     弔慰金/見舞金の支給、社内貸付金、出来事の対応への支援、休暇付与、配置異
     動、仕事量の軽減、職場での慰労会、上司による定期的慰労、人事総務部門からの
     定期的フォロー、産業医によるメンタルケア … 等、出来事の内容や負荷の程度に
     応じたケア体制を整備します。

     ここでは少なくとも会社の対応に不満を持たれたり業務による心理的負荷を誘発/
     増幅させないことがポイントになります。
 
 
 
 
    
  Ⅱ.固体側の脆弱性に関する対応ポイント
 
    固体側要因による発病も業務以外の心理的負荷による発病と同じく労災認定の対象とはなりま
    せんがやはりその発病や精神的ダメージが労働生産性に影響を与えることは間違いありません。

    本人の既往症やアルコール依存状況、病気の有無等可視的なものについては採用時や採用後
    の健康診断、通院等によりそのチェックと対応が比較的に容易でありますが発病トリガーとなる
    ストレス耐性については往々にして見過ごされ職場でのトラブル要因となるケースが少なくありま
    せん。

    ここではこのストレス耐性のチェックと強化対応について解説いたします

 
    
   1.ストレス耐性のチェックポイント
 
    以下のように「業務による心理的負荷評価表」の出来事に対応して業務上発生し通常受忍
    すべき心理的負荷に対するストレス耐性の脆弱点をチェックします。

     <ストレス耐性チェックシート例>
  
   1)仕事の失敗や責任の発生に対するストレス耐性

チェックポイント

レベル

      (1) 自分の仕事の失敗は些細な事実であっても他人から指摘されることに抵抗を感じる

1・2・3

      (2) 自分の仕事の失敗に関して当事者責任を問われることに抵抗を感じる

1・2・3

      (3) 部下の仕事の失敗は些細な事実であっても他人から指摘されることに抵抗を感じる

1・2・3

      (4) 部下の仕事の失敗に関して監督責任を問われることに抵抗を感じる

1・2・3

      (5) 自分の仕事に軽微なものであってもノルマや目標を課せられることに抵抗を感じる

1・2・3

      … etc.

1・2・3

   2)仕事の質・量の変化に対するストレス耐性

チェックポイント

レベル

      (1) 仕事量の増加を伴わないものでも仕事の内容や方法の変更には抵抗を感じる

1・2・3

      (2) 自分の経験・実績に応じたものでも仕事の質・量の変更には抵抗を感じる

1・2・3

      (3) 時間外労働や休日勤務は法定条件内であっても抵抗を感じる

1・2・3

      (4) 同じ職場でも他人の仕事に起因する時間外労働や休日勤務には抵抗を感じる

1・2・3

      (5) 部下の仕事に起因する時間外労働や休日勤務には抵抗を感じる

1・2・3

      … etc.

1・2・3

   3)役割・地位の変化に対するストレス耐性

チェックポイント

レベル

      (1) 同職種でも他部署への配置異動について抵抗を感じる

1・2・3

      (2) 同職種でも転居を伴う転勤について抵抗を感じる

1・2・3

      (3) 昇格・昇進に伴う業務環境の変化に抵抗を感じる

1・2・3

      (4) 他人に比較した自分の昇格・昇進の遅れに不満や焦りを感じる

1・2・3

      (5) 会社方針であっても部下の増減や業務・責任権限分掌の変更に抵抗を感じる

1・2・3

      … etc.

1・2・3

   4)対人関係に対するストレス耐性

チェックポイント

レベル

      (1) 上司の性格や言動に抵抗を感じる

1・2・3

      (2) 同僚の性格や言動に抵抗を感じる

1・2・3

      (3) 部下の性格や言動に抵抗を感じる

1・2・3

      (4) 現在の職場での勤務に抵抗を感じる

1・2・3

      (5) 職場の人間関係の形成・維持に抵抗を感じる

1・2・3

      … etc.

1・2・3


 ※ レベル 1=大いに感じる 2=少しは感じる 3=あまり感じない
 
 
   2.ストレス耐性の強化対応ポイント
  
    対応は採用時の選別と採用後の教育に分けられます。      
 
   
   1)採用時のチェックポイント

     (1) 新卒採用

       ① 生立ち、家庭環境、学生生活に置き換えて上記負荷の経験の有無と対応を
          確認する。
       ② 採用後想定される負荷への対応とその理由を確認する。
       ③ 耐性の弱い者は採用しない。

     (2) 中途採用

       ① 前職の内容、退職事由における上記負荷の経験の有無と対応を確認する。
       ② 採用後想定される負荷への対応とその理由を確認する。
       ③ 耐性の弱い者は採用しない。
 
  
   2)採用後教育のポイント

     (1) 採用後配属前教育

       ① 想定される負荷と受忍の必要性を認識させる。
       ② 他人に負荷を与える言動、負荷を軽減する言動を認識させる。

     (2) 配属後教育

       ① 人事評価により実践状況を点検する。
       ② 評価結果のフィードバック、OJTにより耐性の自覚と強化を促進する。
       ③ 評価者の意識とスキルをメンテナンスする。

     (3) 異動、昇格・昇進教育

       ① 負荷を軽減する知識、スキル、権限、報奨を付与する。
       ② 人事評価により実践状況を点検する。
       ③ 評価結果のフィードバック、OJTにより耐性の自覚と強化を促進する。
       ④ 評価者の意識とスキルをメンテナンスする。
 
 
 
 
    
 

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  <関係参考ページ>

    労災精神障害の認定基準
    管理職のストレス耐性分析   

 
 
 
 
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